事業承継が関わる相続はどのように行うのか?

松村弁護士
代表弁護士 松村 武 (まつむら たけし)

事業を経営されている方は、個人財産の相続とは別に、「事業承継」について計画を立てることが必要となります。事業承継とは、事業そのものを第三者に引き継いでもらうための手続きです。

事業承継では、「事業を誰に引き継がせるか」という問題だけでなく、事業財産の名義変更や税金の処理、経営体制の見直しなど、様々な問題が関わります。

このため、事業承継を成功させるためには、あらかじめ十分な時間をかけて、入念な準備を行うことが必要です。

今回は、事業承継の具体的な流れを紹介し、事業承継を行ううえでの注意点についても解説します。

なお、下記はあくまで一般的なご説明です。事業承継には様々なスタイルがありますので、ご自身の事業の経営状態に応じてケースバイケースに判断しなければいけません。

ご自身が経営されている事業の状況に即して具体的なアドバイスをお聞きしたいという方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

当事務所には、弁護士経験20年以上の実績のある弁護士が在籍しており、これまでに数多くの事業承継の案件を取り扱った実績がございます。事業承継についてお悩みの方は、どうぞ安心してご相談ください。

事業承継は生前に十分な時間をかけて準備をすることが大切

まず、そもそも「事業承継」とはどのような手続きなのでしょうか?

事業承継とは、会社の経営者や個人事業主の方が、事業を第三者に引き継いでもらうための手続きです。

事業承継は、経営者や代表者がお亡くなりになったときに、個人資産の相続の手続きとともに行われることがあります。しかし、相続の手続きだけでも数多くの書類や話し合いが必要となりますので、事業承継も同時に行うとなると、非常に煩雑な手続きとなってしまいます。

このため、事業承継の手続きは、あらかじめ生前に準備をしておくことをお勧めいたします。

事業承継のタイミングは、ご自身で自由に決めることができます。お元気なうちに事業承継の手続きを済ませておけば、ご自身がお亡くなりになったときに、個人資産の相続の手続きを行うだけとなります。手続きがシンプルとなりますので、ご遺族の方の負担が大きく軽減されます。

事業承継には後継者への承継・上場・M&Aの方法がある

それでは、事業承継の具体的な方法を見ていきましょう。

事業承継には様々なスタイルがありますが、大きく分けると3つの方法があります。

方法1:後継者を探す

最もシンプルな方法は、ご自身で後継者を見つけるという方法です。

従業員の中から優秀な社員を指名する方法や、ご子息を後継者に指名するという方法があります。身近に適切な候補者がいない場合は、他社から引き抜くという方法もあります。

ご自身で人材を探さなければいけないため、時間と手間がかかりますが、信頼できる人物を後継者に指名できるというメリットがあります。

方法2:M&Aを行う

後継者が見つからない場合は、M&Aを行うという選択肢があります。M&Aとは、事業そのものを他社に売却して、その会社に事業を継続してもらうという方法です。

M&Aでは、権利関係を処理するために複雑な手続きが必要となります。専門家のアドバイスのもとで、慎重に買取り先を選定したうえで、従業員の処遇や経営方針の確認など、十分に時間をかけて準備を行わなければいけません。

方法3:上場する

個人経営で事業を行っている方の中には、ご自身で事業資金の個人保証をしていることがあります。ご自宅を事業の担保にしている場合や、個人の車を担保に入れていることがあります。

このような場合、事業資金の個人保証や担保がネックとなり、跡取りが見つかりにくくなるおそれがあります。後継者として優秀な人材がいる場合であっても、その方にとって個人保証や個人担保が負担となり、その方が後継者となることに意欲を持たない可能性があるからです。

会社の借入金を個人で保証しなければならないというのは、次期後継者の方にとって大きな負担となります。その方自身にとってネックとなるだけでなく、後継者候補のご家族から反対される可能性もあります。

そこでこのようなケースでは、事業承継の方法として、株式を上場するという選択肢があります。

株式を上場すると、代表者自身が個人的に借入金を保証する必要がなくなります。資金調達の幅が広がるため、後継者が個人として債務を負担するプレッシャーがなくなります。また、社会的な信用が高まるため、外部から幅広く人材を集めることができるようにます。

ただし、株式を上場するためには、様々な条件があります。株式上場をご検討されている場合は、経営体制の見直しを含めて入念な準備が必要となりますので、ご検討されている方はお早めに専門家にご相談ください。

廃業という選択肢も考えられる

上記の3つのいずれの方法も困難である場合は、廃業という選択肢を視野に入れることになります。

廃業をすると、今までご自身が育ててきた事業が完全になくなってしまいます。しかし、事業に関する手続きの一切から解放されることができます。ご遺族の方や残された従業員が事業の負債に追われる心配もなくなります。

事業承継の流れ

それでは、事業承継の手続きは、具体的にどのように進んでいくのでしょうか?

上記で紹介したとおり、事業承継には3つの方法がありますが、全てに共通するおおまかな流れを紹介します。

その1:会社の財産を調査する

まず、会社の財産を把握します。

中小企業の場合には、個人の財産と会社の財産が混在していることが珍しくありません。店舗として使っている不動産が個人名義になっていたり、個人的に購入した車を商品の配送に使用しているような場合です。

家族経営の場合は、「そもそも事業の財産なのか個人の財産なのか区別ができない」ということもあります。例えば、個人的な趣味として使っているパソコンを、たまに取引相手とのメールのやり取りに使うことがある、というようなケースです。

しかし、事業承継を成功させるためには、会社の財産と個人の財産をはっきりと区別しなければいけません。事業承継では、会社の財産のみを従業員が承継します。代表者個人の財産は、事業承継ではなく、代表者のご家族が相続財産として引き継ぐことになります。

事業承継を行うためには、まず第一に、「どこまでが会社の財産なのか」という点を明確にすることが必要です。きちんと区別していなければ、代表者の方がお亡くなりになった後に、ご家族と従業員の間でトラブルが生じるおそれがあります。

その2:事業承継の方法を決定する

次に、事業承継の方法を決定します。事業承継の方法には、「後継者を探す」「M&Aを行う」「上場をする」という3つの方法があります。

ご自身の事業の資産状況や経営体制を慎重に分析したうえで、いずれの方法が最もふさわしいのかを決定します。

その3:長期的な視点で事業承継の計画を立てる

事業承継の方法が決定すると、その方法に沿って具体的な計画を立てます。

事業承継の方法によっては、数年単位での計画が必要となります。ご自身で後継者を指名する場合には、銀行などの主要取引先にあらかじめ後継者を紹介しておき、信頼を培(つちか)っておくことが必要です。

いずれにしろ、事業承継は数ヶ月から数年単位で入念に準備をしなければいけません。事業承継を成功させるためには、長期的な視点を持ってプランを練ることが重要です。

事業承継は経営の根幹に関わることなので慎重に行うべき

事業承継は、会社の経営に大きく影響することなので、慎重に状況を分析しなければいけません。

具体的には、どのような点に気をつければよいのでしょうか?事業承継は、通常の相続とはどのような点が異なるのでしょうか?

生前に決めなければならないことがたくさんある

通常の相続では、お亡くなりになった方が何の準備していなくても、法律によって相続人が定められています。子どもがいる場合は子どもが引き継ぎ、子どもがいない場合は、親や兄弟が引き継ぐことになります。

しかし、事業承継については、このような定めがありません。会社の社長が亡くなった際に、「誰が後継者となるか」ということは、法律で自動的に決まるわけではありません。

その他にも、事業承継には様々な問題がありますが、いずれも法律には定めがありません。「今までお世話になった銀行との取り引きを継続するべきか」「オフィスを移転するべきか」などの問題について、法律で自動的に決まることはありません。

個人の相続であれば、法律のルールに従って処理を進めることができますが、事業承継の場合は、生前におおまかな流れを決めておくことが重要となります。

このため、事業承継の場合は、代表者の方がお元気なうちに時間をかけて準備をすることが必要となります。

マイナスの財産処理が必要となる

事業資金として銀行から借り入れをしている場合、代表者ご自身が保証人となっていることがあります。他にも、代表者の個人資産を担保に入れているケースや、代表者の親戚が保証人となっているケースがあります。

事業承継を行う場合には、このような個人保証や個人担保などのマイナスの財産を適切に処理して、次期後継者にとって負担とならないように配慮をする必要があります。

通常の個人の相続であれば、マイナスの財産の処理に時間がかかることはありません。住宅ローンなどのマイナスの財産が含まれていたとしても、担保となっている不動産によってまかなうことができるケースが多く、そもそもマイナスの財産が含まれてないことも珍しくありません。

これに対して、事業承継の場合は、マイナスの財産処理を慎重に行わなければいけません。もし銀行などの金融機関が、「この社長の経営手腕を信用しているからお金を貸している」と考えている場合は、代表者が変わると融資が取り止めとなる可能性があります。

マイナスの財産処理に失敗してしまうと、事業が立ち行かなくなるおそれがあります。このため、借入資金や担保などのマイナスの財産処理は、十分に時間をかけて慎重に行わなければいけません。

個人の財産と事業の財産が混在していることがある

事業承継の手続きで最も重要となるのが、「個人の財産と事業の財産を区別する」ということです。

個人経営で事業を行っている場合は、個人の財産と事業の財産が混在していることが珍しくありません。しかし、名義を個人のままにして放置していると、代表者がお亡くなりになった際に、トラブルが生じる恐れがあります。

よくある争いのケースとしては、ご家族の方が「亡くなった方の遺産として、家族が引き継ぐべきだ」と主張する一方で、従業員の方が「亡くなった方が事業に使っていたものだから、事業資産として、従業員が引き継ぐべきだ」と主張するというトラブルがあります。

このように、個人財産と事業財産が混在していると、従業員とご遺族の間で争いが生じるおそれがあります。このようなリスクを避けるためにも、個人の財産と事業の財産はきちんと分けておくことが必要です。

事業承継には様々な税金が関わる

事業承継を行う過程では、様々な税金が関わります。税金がどれぐらいかかるかによって、事業承継の成否が大きく左右されます。

事業承継では、特別な税制が適用されることがあります。例えば、事業承継税制が適用されると、法人の相続税・贈与税が免除されるというメリットがあります。

税金の優遇を受けることができるかによって、事業承継にかかる税額は大きく変動します。事業承継を行ううえでは、あらかじめ税金について綿密な資産を行うことが重要です。

事業承継のお悩みはお早めに当事務所までご相談ください

事業承継の手続きには時間がかかります。事業の規模によっては、数年単位で計画を立てることが必要です。十分に時間をかけて準備をしておかないと、ご自身がお亡くなりになった後に事業が立ち行かなくなるおそれがあります。

また、事業承継を行う場合は、マイナスの財産処理を慎重に行わなければいけません。個人保証や個人担保を行っている場合には、あらかじめ権利関係を適切に処理しておき、次期後継者にとって負担とならないように配慮をする必要があります。きちんと債務処理を行っていないと、ご家族が事業の負債を背負うことになってしまうかもしれません。

会社をご経営されている方は、時間をかけて事業承継の計画を立てておく必要があります。事業承継をご検討されている方は、お早めに当事務所にご相談ください。

当事務所は日頃から相続の案件に力を入れており、これまでに事業承継の案件を数多く取り扱った実績がございます。事業承継についてお悩みの方は、どうぞ安心して当事務所にご相談ください。

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